ここでは、ドラッカーの対人マネジメントの理論である『自己統制のマネジメント』の概要を紹介します。ドラッカーの対人マネジメント思想の原点です。

現代マネジメントの発明者ドラッカー

 マネジメントの発明者ドラッカーは、1954年に刊行された彼の書物で、すでにレベルの高いマネジメントに関する思索を私達に紹介しています。

 

 ドラッカーは様々なマネジメントの思索を展開しました。彼のマネジメントに関する思索は多くの日本人経営者によって受け止められ、積極的に活用されてきました。しかし、彼の思索の中で、現在でも日本の管理職や多くの会社組織で積極的に受け入れられていないものがあるのです。それは、彼の「対人マネジメント」に関する思索である「自己統制のマネジメント」です。

理解されなかったドラッカーの対人マネジメント

 この背景には、ドラッカーによって紹介された対人マネジメントの考え方がマネジメント・コンサルタントや研修の講師によって適切に理解されていなかったことが挙げられます。不適切な理解をべースにしたコンサルティングやトレーニングを通じて、彼らの不適切な理解が燎原の火のように日本中の会社に広がったのです。

 

 なぜこのような理解不全が起こったのでしょうか? その原因となりそうな要因は複数発見できます。その中で、最も大きい原因は、ドラッカーの主張した「対人マネジメント」の概念が私達が持ちがちな既成の認識とあまりに違うものだったことが挙げられます。ドラッカーの示した新しいパラダイムは、古い強固なマネジメントに関するパラダイムを持った人々には、認識さえされなかったのです。

  MBOというなじみ深い言葉があります。これはManagement by Objectives and Self-Controlという2つの要素からなる英語表記の略語です。完全に訳すと、「目標による管理と自己統制によるマネジメント」とならなければなりません。「目標による管理」が方法を、「自己統制」が目的を示しています。ところが、通常日本においては、「自己統制」の部分が割愛されて「目標管理」とか「目標による管理」と呼ばれています。このようなことからも、「自己統制」が軽視され、あるいは無視されている現実を垣間見ることができます。

自己統制のマネジメント

 ドラッカーが導入した現代的なマネジメントは、「管理職の統制管理的手法」ではなく、「部下の自己統制のマネジメントの支援活動」なのです。部下の自律的マネジメントを重視したものです。この部下による「自己統制のマネジメント」を成功裏に活用するためには、管理職の様々な工夫や努力が必要となります。工夫や努力なく、「自己統制のマネジメント(セルフマネジメント)」を実現させることはできません。

マネジメントは学習させなければならない

 人をマネジメントする役割を与えているのなら、その役割を持つ人に対人マネジメントの基礎をしっかりと学習させることが求められます。現代的なマネジメント(自己統制のマネジメント)のスキルは、個人の経験だけを通じて獲得されるものではないからです。管理職の対人マネジメント力は、会社経営に極めて大きな影響を与える要素の一つです。言うまでもなく、それが社員の士気や満足度、組織の活力に大きくかかわってきます。そして会社全体の成果や効率、競争力に大きな影響を与えます。

 

 コア・コンセプト・ラボラトリーでは、ドラッカーの膨大なマネジメントの思索の中から、対人マネジメントの要素を抽出して、短時間に受講できるコースを提供しています。上司からの統制的な力で動かされている社員を開放し、彼らが本当に力を発揮し、組織のビジョンや目的をにらんで、組織に対する貢献を高めていく環境づくりをするために、このコースを役立てることができます。

 ちなみに、このコースでは、人事制度に関わることについては、要望がない限り触れることはありません。マネジメント・プロセスの中で、各管理職が「部下の自己統制」を実現するために実行できることについて、実際の機能不全情報を参考にしながら、共に考えていく機会を持って頂くと共に、後から復習できるように、まとまった情報を提供しています。

 セーレン・キルケゴール1813-1855)デンマーク

 ドラッカーが最も影響を受けた思想家は実存主義の先駆けとなったキルケゴールです。ハンブルグでの見習い実習時代の不毛な時間の中で、ドラッカーは他の書籍と共に、キルケゴールの書籍を夢中になって読み込みました。キルケゴールは様々な外圧の中で、本来の自分自身以外の要素を入れ込み、自分自身を分裂させたり、統一性を失っている人々の状態を嘆きました。そしてその状態を「絶望」と呼び、「死に至る病」に侵されている状態と見たのです。そして、それぞれの人間が主体性を持ち、自ら考え、自ら動くことの重要性を説いたのです。一人ひとりの人間が人間らしい生き方ができること、そして、人間らしい人間を生み出すことをテーマに思索を展開した思想家です。

 

 ドラッカーもまた、組織の中で当然のように人間が疎外されている姿を見出していました。また、独裁主義の登場を通じて、恐ろしい人間疎外が起こっている現実も体験しました。そしてドラッカーは、組織において、一人ひとりの組織人が主体性を持って仕事をすることの意義を発信し続けました。自分の力で思考し、その考えに沿って行動し、それに対して自分が責任を負えるような仕事の仕方を提起したのです。キルケゴール哲学のマネジメント版です。これが「自己統制のマネジメント」のバックボーンになっています。また彼は、大不況を背景に登場した独裁主義を発生させないようにするために、組織効率を高めるマネジメントの力が必要であると考えたのです。ドラッカーがマネジメントの質を高めるために様々な思索を展開し、マネジメントの追求に人生をささげた理由がここにあったのです。ドラッカーが対人マネジメントの質を高めるカギと考えたのは、「自己統制のマネジメント」であったことは言うまでもありません。キルケゴールは主体性を持った人間だけが「情熱」を持てることを指摘したように、ドラッカーも真の動機付けは、部下の主体性を尊重したときに実現することを知っていたのです。ドラッカーもキルケゴールもドラッカーも、一人ひとりの人間が主体性を持って、人間らしい生き方ができる方法を真剣に模索したのです。

ニコラウス・コペルニクス(1473-1543) ポーランド

 コペルニクスは、天動説を集大成したプレトマイオスの考え方ではどうしても説明できない天体の動きに直面し、地動説を使ってそれを説明することに成功しました。天動説から地動説へと、大きなパラダイムシフトが起こったのです。カトリックの司祭でもあった彼は、彼の発見が教会にもたらす影響を考え、公表を躊躇していました。彼が死の直前にようやく刊行した『天球の回転について』という書物は高い評価を受けたものの、地動説の部分は無視され続けたのです。

 

 ドラッカーもまた、対人マネジメントについて大きなパラダイムシフトを実現しました。それは「管理職による部下の統制管理」から「部下の自己統制によるマネジメント」の大きな転換でした。しかし、古い統制管理的なマネジメントの認識を持っている人には、それを理解できるどころか、その認識さえできずに終わっていたのです。ドラッカーが対人マネジメントの中で引き起こしたことは、それほど大きなパラダイム・シフトだったのです。この古いパラダイムに縛られる現象は現在も引き続き起っています。多くの職場だけでなく、多くのトレーニングや教育の現場、コンサルティング・サービスの中でも見出すことができます。

 

 新しいマネジメントについての考え方を根づかせるのは、このような困難に出会う可能性が高いのです。コア・コンセプト・ラボラトリーでは、それを実現するために、貢献していくことを使命と考えています。

コア・コンセプト・ラボラトリーが目指していること

 コア・コンセプト・ラボラトリーでは、カール・ユングを中心とした心理学とピーター・ドラッカーを中心としたマネジメントの研究活動を推し進めながら、いかにそれらをビジネスの効率化と結びつけることができるかを探求しています。主要テーマごとに、何がコアな要素なのかを探り出し、それを平易に、トレーニングを通じて参加者と分かち合っています。今まで当たり前のように行われていたトレーニングプログラムの在り方にチャレンジすることを考えています。私たちは、顧客との関係については、「真正のトレーニングの提供」 、「学習定着のための最大限の努力」、「顧客企業のコストに対する配慮と効率の追求」という3つの行動原理を持っています。「真正のトレーニングの提供」という私たちの社内のスローガンは、本物を追及するという私たちの基本的態度を示しています。いい加減な理論は使わない、いい加減なものは紹介しない。本物を追及し、本物の伝道者になることを考えています。

 

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